祖父は満州に歩兵として参戦した。
終戦を迎えて、星の位置を頼りにひたすら歩いたという話を聞いた。
生きて帰ってこれたことが奇跡だと本人も周りも思ったそうだ。
戦時中のことを話すのを祖父は嫌がっていた。
忘れたい記憶が多いみたいだった。
学校の宿題だから、何か少しでも教えてもらえないか粘ってねだってみた。
普段おちゃらけている祖父が、
表情を固くしながら
「戦争は人間が、人間でなくなる。」
そう絞り出すようにつぶやいた。
それ以上、祖父に戦争について尋ねることは出来なかった。

ハクソーリッジを観て、
祖父がどうして話したくなかったのか、
思い出したくなかったのか、
それが分かるようになった。

上映中、ひたすら戦争は絶対に起きてはならない。
絶対に戦争がなくなるようにしなければならない。
心底祈りながら見終わった。

チョンミョンソク牧師がベトナム戦争に参戦した時のことを話してくれたその内容と全く一緒だった。
手榴弾や砲弾で下半身が吹っ飛ばされた兵士、
頭が割れて脳みそが飛び出ている兵士、
一瞬で命がただの塊になり、ウジにまみれていく凄惨さ
人はなぜ生まれてきたのか。
人はなぜ殺し合いをするのか。
そんな問いがよぎる瞬間、自分が死ぬかもしれない。

ひたすら自分が生きることだけを考えるしかないような
殺し合いをする戦場で「あと一人、あと一人お願いです神様、どうか・・・あと一人。」と
救うことに命を懸けたデズモンド・ドスは負傷兵を救い続けた。
どれほどの奇跡なのか、認めるしかない。

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多少、脚色されている部分(銃を持たない決心をした理由など)はあるようだが、信仰による良心的兵役拒否者であることや、臆病者というレッテルを張られたのも事実だろう。
しかし、そのレッテルは戦場という極的な場所で信念どおりに行動したドスにより木端みじんに粉砕された。
「人は見かけではない、考えが重要だ。考えが人間の価値だ」という一言が思い出される。

信仰を持ちながらも戦争をする人と
戦争に良心的協力者と自称して一人でも救われるようにと参戦をしたドスの違いはどこから来るのか?
罪を認めて、罪から自由になるにはどうしたらいいのかを知っているかどうかの違いではないかとわたしは思った。

神様が喜ばれない事、悲しまれることは絶対にしない。
これを貫いた方は私の知る限り
デズモンド・ドスとチョンミョンソク牧師だけだ。
チョンミョンソク牧師もドスのように上官から理解されなかった
「捕虜は足手まといになる、どうして殺さないのか?」と叱責されたそうだ。
しかし、自分が神様に愛されているように、相手も神様の大切な命だと思って接した。
そのチョンミョンソク牧師の姿に深く感動した上官は後に
『ベトナムの戦場で出会った神様の人』(2010年、タビッ出版社)を執筆し出版している。
book

「私はカトリックの教会に通いながら、今まで出会ったり聞いた話の中で、目の前にいる鄭明析上兵ほど真実に神様を信じる人を見たことがない。もちろん、昔の預言者たちの中で神様の御言葉を守るべくして殉教した偉大な聖人たちの話はたくさん聞いたが、私と共に戦闘の現場をかいくぐった戦友たちの中でそのような人に会ったということは、奇跡であると言うほかない。」

『ベトナムの戦場で出会った神様の人』(2010年、タビッ出版社)(113頁より)His lifeより引用

デズモンド・ドスは75人を救った功労として勲章を授与されているように
チョンミョンソク牧師も勲章を授与されている。
His Life-jung myung seok「ベトナム戦争参戦」部分の記事を読むとチョンミョンソク牧師がどのように戦場で神様と共に奇跡を起こしたのか確認できるのでオススメしたい。

生前、デズモンド・ドス自身は映画化をあまり善しとしなかったそうだ。
亡くなる数年前にようやく承諾したとある。
神様の視点を持って生きる人はやはり違う。
人の考える名誉を求めて行なうのではなく、神様の願うことを考えて行なうスタイルなのだと思う。
チョンミョンソク牧師もそういうスタイルゆえに人から理解されず、時にはみじめに扱われ愚弄されるとしても、ただ信念を行なう。
そのゆるぎない精神をわたしはチョンミョンソク牧師から今も見せてもらっている。

憎しみよりも愛を。

憤りよりも赦しを。

恨みよりも思いやりを。

精神的な戦場で今もなお、チョンミョンソク牧師は「神様と共に生きる愛」を行ないながら説き続けている。


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